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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)1746号 判決

神奈川県藤沢市本藤沢七丁目三番一七号

原告

株式会社

インターナビシステム

右代表者代表取締役

小野義治

右代表者代表取締役小野義治職務代行者

三野研太郎

右訴訟代理人弁護士

三好啓信

辛島聡

道下崇

乗杉純

羽田野宣彦

藤本欣伸

神奈川県足柄下郡湯河原町鍛冶屋八六五番地の一

被告

築城俊雄

右訴訟代理人弁護士

輿石英雄

主文

一  被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の特許権につき、平成三年九月二〇日付けの専用実施権設定契約を原因とする別紙第二目録記載の専用実施権の設定登録手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告との間で、平成三年九月二〇日、被告がした別紙第三目録記載の発明(以下「本件発明」という。)につき、本件発明が特許登録されたときには、原告を別紙第二目録記載の専用実施権者とする旨の契約(以下この専用実施権を「本件専用実施権」、この契約を「本件専用実施権設定契約」という。)を締結した。

2  本件発明は、平成七年七月二八日、別紙第一目録記載の特許権として登録された。

3  よって、原告は、被告に対し、本件専用実施権設定契約に基づき、主文第一項記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2の事実は認める。

三  抗弁及び被告の主張

1  原告と被告は、平成四年一月二二日ころ、本件専用実施権設定契約を合意解約した。

2  本件合意契約のされた経緯は次のとおりである。

(一) 原告と被告は、平成四年一月二二日ころ、本件発明の特許出願人を、被告から、原告と被告の共同名義に変更する旨の契約(以下「本件共同名義変更契約」という。)を締結した。

すなわち、原告代表取締役小野義治(以下「小野」という。)は、本件専用実施権設定契約を結んだものの、その設定登録がいつになるかの見通しが全く立たなかったこともあり、かねてから、被告に対し、本件発明の特許出願人を、被告から原告の単独名義とすることを要求していたが、被告の要望も受け入れて、本件共同名義変更契約を締結した。その際、原告と被告は、将来的には、これを原告の単独名義とする旨の合意もした。

(二) 本件共同名義変更契約及び右合意は、本件発明の「特許を受ける権利」(特許法三三条一項)の一部及び全部を被告から原告に移転するものである。

しかし、専用実施権は、特許権者が特許権者でない者に対して設定するものであるから、特許権者や特許権の共有者が、自分自身に対し、専用実施権を設定することは全く無意味である。

すなわち、本件において、本件発明の特許出願人が、原告と被告の二人になれば、「特許を受ける権利」や登録後の特許権を原告と被告が共有することになるが、各共有者は、他の共有者の同意なくして、持分の譲渡や専用及び通常実施権の許諾もできない(同条三項、同法七三条一項、三項)のであるから、原告が、本件専用実施権を持つことは全く意味がない。

また、本件発明の特許出願人名義が、原告の単独になれば、「特許を受ける権利」や登録後の特許権を原告が単独で持つことになるから、原告が、本件専用実施権を持つことは全く意味がなくなる。

(三) このように、本件発明の特許出願人名義が原告と被告の共同となり、また、将来、これが原告の単独となれば、原告の本件発明に関する専用実施権が無意味になることから、原告と被告は、平成四年一月二二日ころ、本件専用実施権設定契約を合意解約したのである。

(四) なお、平成四年一月二二日付け原告の代表取締役会議事録(当時、小野と被告は共に原告の代表取締役であった。)の一項には、「国際及び国内出願中の特許の出願人名義を株式会社インターナビシステムと築城俊雄との共同名義とする。」旨に続いて、「但し平成三年九月二〇日付けの築城俊雄との専用実施権設定契約は上記に抵触する条項を除き有効とする。」旨の記載があるが、これは、原告と被告が、本件専用実施権設定契約が合意解約されたことを前提としたうえで、その契約書の条項のうち、事業の継続が困難になった場合の解除権(一四条)など、本件発明の特許出願人名義が原告と被告の共同になることと矛盾しない条項のみを、本件共同名義変更契約の条項として存続させたことを示すに過ぎないものである。

仮に、本件専用実施権設定契約が合意解約されず、この契約が、本件共同名義変更契約と併存するならば、右但書のような記載をするはずがないし、また、これらが併存するなら、その旨を明記したはずである。

したがって、このことからも、本件専用実施権設定契約が合意解約されたことは明らかである。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1  抗弁及び被告の主張中、2(一)のうち本件共同名義変更契約が締結されたこと、2(四)のうち原告代表取締役会議事録の記載内容は認め、その余は否認又は争う。

2  原告と被告の間で本件共同名義変更契約が締結された経緯は以下のとおりである。

(一) 小野は、平成三年六月中旬ころ、被告同席の場で、南健次から、本件発明の概要の説明を受けたうえ、本件発明を事業化する会社を設立したいとして出資の依頼を受け、同年七月二日、原告の設立発起人となった南の口座に対し、一五〇〇万円を振り込み、このうち一〇〇〇万円が原告の資本金に振り替えられ、同月一六日、原告が設立された。

(二) 小野は、平成三年八月二二日ころ、被告から、被告が泰川実業株式会社(以下「泰川実業」という。)との間で、本件発明についての実施権に関する業務委託の話を進めている旨を告げられ、やむなく原告の業務を三か月間だけ泰川実業に委託することを承認した。

(三) 原告は、被告との間で、平成三年九月二〇日、本件専用実施権設定契約を締結した。

(四) 小野は、平成三年一二月ころ、被告に対し、泰川実業との業務委託の経過について尋ねたところ、被告は小野に対し、泰川実業との間で締結された「DLIS基本契約書」なる契約書を見せた。ところが、これによると、泰川実業に対する業務委託期間は、三か月ではなく、一五年となっていたため、小野は、被告が無断でこのような契約を締結したことに不信感を抱き、被告が、本件専用実施権設定契約に基づき、原告に対して、本件発明に関する専用実施権の設定登録をするか不安になった。

(五) ところで、原告は、被告に対し、数度にわたり、各一二〇万円を貸し付けていたが、被告は、その後、更に貸付けを要請してきた。

そこで、小野は、本件専用実施権の設定登録と右貸付金の返済を確実にするため、被告に対し、本件専用実施権設定契約よりも強力な効力がある本件発明の特許出願人名義の変更を提案し、本件共同名義変更契約が締結された。このように、本件共同名義変更契約は、本件専用実施権の設定登録と右貸付金の返済を確実にするために締結されたものであり、その際、本件専用実施権設定契約が解約されたわけではない。

3  なお、本件発明の特許出願人名義が原・被告の共同となると、原告の本件発明に関する専用実施権が無意味になるという被告の主張は誤りである。

(一) すなわち、特許権の各共有者は、単独で、特許発明の実施ができ(特許法七三条二項)、また、他の共有者の同意なくして、専用実施権の設定及び通常実施権の許諾ができない(同条三項)。したがって、原告と被告が本件発明の特許権を共有している状態では、被告は単独で本件発明を実施でき、また、原告は単独で第三者に通常実施権を設定することはできない。

しかし、原告が、本件専用実施権の設定を受ければ、原告だけが本件発明を実施でき、また、単独で第三者に通常実施権を設定することができるのである。

したがって、原告が、本件専用実施権の設定を受けることは大きな意味がある。

(二) また、本件共同名義変更契約が締結されたからといって、当然に本件特許権が原・被告の共有になるわけではなく、出願人の名義変更のためには、特許庁の書式に従った出願名義人変更の届出が受理されなければならない。したがって、仮に、本件専用実施権契約が合意解約されたと解すると、被告が右届出に必要な書類の作成に協力せず、名義変更が受理されない場合には、原告は、共同名義も取得できず、専用実施権も設定できないことになる。このように、原告にとって本件専用実施権設定契約は大きな意味があり、原告が右契約の解約を意図していたはずがない。

4  本件発明の特許出願人が、被告から、原告と被告の共同名義に変更されると、専用実施権設定登録義務者が、被告から、原告と被告になるから、本件専用実施権設定契約も、その限りにおいて修正されることになる。そこで、平成四年一月二二日付け前記代表取締役会議事録一項但書で、「但し平成三年九月二〇日付けの築城俊雄との専用実施権設定契約は上記に抵触する条項を除き有効とする。」旨の規定を設けたのである。

5  原告は、平成五年二月二六日、株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)との間で、一〇〇〇万円を借り入れる旨約し、被告は、原告の右債務を連帯保証した。

小野は、右借入の話合いの席で、三和銀行の担当者に対し、原告が被告と本件専用実施権設定契約を締結しており、将来、専用実施権を得られる旨説明し、三和銀行は、これを前提に右貸付けを行った。また、被告も右の事情を承知で、右連帯保証をしたのである。

このことからしても、右の時点において、本件専用実施権設定契約が存続していたことが明らかである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  当事者に争いのない事実(抗弁及び被告の主張中、2(一)2(四)の各一部)、甲三、四号証、七ないし一一号証、一三号証、一五号証、一八号証、二七、二八号証、三二、三三号証、乙一号証ないし三号証、一〇号証ないし一四号証、一八号証ないし二一号証、二三号証、原告会社代表者小野義治及び被告本人の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  当事者

(1) 原告は、平成三年七月一六日、広告代理業、通信機器の開発及び周辺機器の開発、製造、販売等を目的として設立された株式会社であり、その後、同年八月二三日、小野及び被告が共に代表取締役に就任した。

(2) 被告は、本件発明の発明者である。

(3) 平成六年三月二二日、小野一人が原告の代表取締役に就任したが、その効力を争う被告の申請により、同年八月二日、当庁において小野の取締役兼代表取締役の職務執行停止の仮処分決定がされ、弁護士三野研太郎が職務代行者に選任された。

(二)  本件事案の経緯

(1) 被告は、平成二年八月二一日、本件発明について、国際特許出願及び日本国への特許出願をした。

(2) 小野は、建設会社を経営していたが、平成三年六月中旬ころ、かねてからの知人である力石俊明から南健次を紹介され、同月二〇日、南から被告を紹介された。小野は、被告から本件発明について説明を受け、南から、本件発明を事業化するため原告を設立するので、出資するよう要請され、同年七月二日ころ、原告設立の資金として、一五〇〇万円を拠出し、内金一〇〇〇万円が原告の資本金に振り替えられ、同月一六日、原告が設立された。当初、原告代表者には南が就任したが、その後、不祥事により解任され、小野と被告が代表者となった。

(3) 小野は、平成三年八月二二日ころ、被告から、被告が泰川実業との間で、本件発明の実施について業務委託の話を進めている旨を告げられた。調査の結果、話が進行していることがわかつたので、小野は、やむを得ず、原告の業務を三か月間だけ泰川実業に委託することを承諾した。

(4) 原告は、被告との間で、平成三年九月二〇日、本件専用実施権設定契約を締結した。

原告は、同月二四日、被告に対し、右契約の約定に基づき、本件専用実施権設定契約の頭金として五〇〇万円を支払った。

また、小野は、同日、原告に対し、運転資金として二〇〇〇万円を貸し付けた。

更に、原告は、同日、同年一〇月八日及び同月二九日、被告に対し、各一二〇万円を、また、同年一一月二〇日、二〇〇万円を貸し付けた(原告が被告に対し右金員を拠出したことは、当事者間に争いがない。なお、被告は、右金員は給料として支払われた旨主張するが、甲九ないし一一号証及び甲二八号証に「金銭借用書」という記載があること、支払日及び支払額が一定していないことなどからみれば、にわかにこれを給料と認めることは困難である。)。

(5) 被告は、平成三年一二月ころ、小野に対し、泰川実業との間で締結された「DLIS基本契約書」と題する契約書を見せた(なお、この契約書によれば、DLISとは、走行線方式によるナビゲーションシステム及びその応用と機能を付加した製品に対し同システムを導入していることを知らせるためのシステム・イメージの記号(略号)である。)。これによると、被告は、本件発明及びこれに付随するノウ・ハウの実施を目的として、その実施権を泰川実業のみに許諾し、本件発明の権利確定存続期間中、事業開発、推進等のために要する諸業務を同社に委託することとされ、その業務委託期間は、一五年となっていた。

小野は、被告が無断で当初の説明と異なるこのような契約書を作成したことに抗議した。

なお、原告は、同年一二月二六日ころにも、被告に対し、一二〇万円を貸し付けた。

(6) 小野は、右のような経緯の中で、同月二七日、被告に対し、〈1〉原告と被告が今後、原告の株をそれぞれ五〇パーセント所有すること、〈2〉代表権を持つ取締役を小野のみとすること、〈3〉本件発明の特許出願人を被告から原告に変更すること、〈4〉被告が、同年一二月二六日ころ、借り受けた前記一二〇万円を、同月三〇日までに返済できないときは、〈1〉ないし〈3〉の条件を被告が承諾したこととすること、〈5〉被告が〈1〉ないし〈3〉を承諾するときには、原告が被告に対し月額一二〇万円の報酬を支払うことを提案し、被告は、これに応じた。しかし、被告は、同月三〇日、原告に対し、右一二〇万円を返済したので、右〈1〉ないし〈3〉などの合意は、なかったこととされた。

(7) 被告は、平成四年一月六日ころ、原告から月々一二〇万円の金員の支払がないことなどを理由として、本件専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示をしたが、その後、これを撤回した(当事者間に争いがない。)

(8) 小野は、平成四年一月二一日ころ、被告に対し、本件発明の特許出願人を被告から、原告に変更することを要求したが、被告とのやりとりの中で、原告と被告の共同名義に変更することで合意し、原告と被告は、同月二二日、本件共同名義変更契約を締結した。

すなわち、小野と被告は、同日、「代表取締役会議事録」と題する書面(乙一四号証)を作成したが、その一項には、「国際及び国内出願中の特許の出願人名義を株式会社インターナビシステムと築城俊雄との共同名義とし、特許手続を誠実に実行する。」旨の記載があり、なお、同項但書には、「但し平成三年九月二〇日付けの築城俊雄との専用実施権設定契約は上記に抵触する条項を除き有効とする。」旨の記載がある。

また、被告は、右とは別に、同日、原告宛に「誓約書」と題する書面(甲一三号証)を作成したが、それには、右共同名義にすることの承諾のほか、「被告が将来、本件発明を原告の単独名義にすることを約束する。」旨の記載がある。

(9) 原告は、平成五年二月二六日、三和銀行との間で、一〇〇〇万円を借り入れる旨約したが、その際、被告は、原告の右債務を連帯保証した。

2  右によれば、小野は、原告の設立資金として一五〇〇万円もの金員を拠出し、本件専用実施権設定契約を締結した後、更に原告の運転資金として二〇〇〇万円を提供するなどしたこと、ところが、被告が泰川実業との間で前記内容の「DLIS基本契約書」と題する契約書を作成していたことが分ってこれに抗議し、その後、一旦1(二)(6)の合意をし、更に本件共同名義変更契約の締結に至ったことが認められる。

これによれば、小野は、被告との間で本件発明の専用実施権設定契約をしたのに、被告が無断で第三者に対し、右のような本件発明に関する業務委託をしたことを知り、このままでは被告が、原告に対する本件専用実施権の設定登録に応じなかったり、右貸付金の返済を怠るおそれがあり、そうなると、原告に対してした相当額の拠出が無意味になることを憂慮し、本件発明に関する原告の権利を強化することを企図して、被告に対し、本件発明の特許出願人を被告から、原告と被告の共同名義に変更することで合意し、平成四年一月二二日、本件共同名義変更契約が締結されたものというべきである。

ところで、右によれば、原告は、本件専用実施権設定契約を締結しながら、なお、本件共同名義変更契約を締結したことになる。しかし、同契約は、当事者間の合意に過ぎないのであるから、これが諦結されたからといつて、当然に別紙第一目録記載の特許権が原・被告の共有になるわけではなく、特許出願人の名義変更のためには、特許法上、その届出に関し、被告の協力が必要となるから、少なくとも、これがされるまでは、原告にとって本件専用実施権設定契約がなお存続することに意味がある。

また、本件共同名義変更契約の締結により、本件専用実施権設定契約が解約されたとすると、原告は、被告の右協力がされるかどうか不確定なまま右解約をしたことになる(原告代表者小野義治の尋問の結果によれば、現に被告の協力は得られなかったことが認められる。)。しかし、原告が、被告との間で本件専用実施設定契約を締結しながら、それに代わる権利の取得について曖昧なまま右契約をひとまず解約するということは、特別な事情のない限り考えられず、本件でこのような特別の事情があるとは認められない。

なお、原告主張のとおり、特許法七三条によれば、特許権の共有は、本件専用実施権を無意味なものにするとはいえない。

そして、前記代表取締役会議事録の一項但書は、本件専用実施権の存在を前提にするものとみることができる。

以上によれば、原告と被告が、平成四年一月二二日ころ、本件共同名義変更契約を締結した際、本件専用実施権設定契約を合意解約したということはできない。

3(一)  これに対し、被告は、専用実施権は、特許権者が特許権者でない者に対して設定するものであるから、特許権者や特許権の共有者が、自分自身に対し、専用実施権を設定することは全く無意味であり、本件においても、本件発明の特許出願人名義が原告と被告の共同となり、また、将来、これが原告の単独となれば、原告の本件発明に関する専用実施権が無意味になることから、原告と被告は、本件専用実施権設定契約を合意解約したと主張し、被告本人は、これに沿う供述をする。

そして、前記認定事実によれば、小野が、本件発明の特許出願名義人を将来、原告の単独とすることを希望していたこと、また、被告が作成した前記誓約書には、「将来、本件発明を原告の単独名義にすることを約束する。」旨の記載があることが認められ、仮に、原告が将来、別紙第一目録記載の特許権を単独で取得すれば、原告自身が専用実施権を有することに意味がなくなることは、被告主張のとおりである。

しかし、原告と被告は、当時、本件発明の特許出願人を共同名義にする旨の合意をしたに過ぎず、その時点において原告が、別紙第一目録記載の特許権を単独又は共有により取得したわけではない。そして、本件共同名義変更契約と本件専用実施権設定契約は、いずれも当事者の合意に過ぎない以上、これらが併存することは、矛盾するものではなく、また、前記のとおり、両者が併存することは、無意味ではない。

したがって、被告の右主張及びその供述は採用することができない。

(二)  また、被告は、前記代表取締役会議事録一項但書には、「但し平成三年九月二〇日付けの築城俊雄との専用実施権設定契約は上記に抵触する条項を除き有効とする.」旨の記載があるところ、これは、本件専用実施権設定契約書の条項のうち、事業の継続が困難になった場合の解除権(一四条)など、本件発明の出願人名義が原告と被告の共同になることと矛盾しない条項のみを本件共同名義変更契約の条項として存続させたことを示すものであり、仮に、本件専用実施権設定契約が合意解約されず、この契約が、本件共同名義変更契約と併存するならば、右但書のような記載をするはずがないし、また、これらが併存するなら、その旨を明記したはずであると主張する。

しかし、右の記載のみから、直ちに被告主張のように解することはできないばかりか、両契約が併存する旨を明記した書面は証拠上認められないものの、本件専用実施権設定契約が消滅した旨を明記した書面も存しないのであるから、これが合意解約されたと解するよりも、前述のように、従前どおり存続すると解する方が合理的である。

したがって、この点に関する被告の主張も、採用することができない。

4  以上によれば、本件専用実施権設定契約を合意解約した事実を認めることができないから、抗弁(及び被告の主張)は、理由がない。

三  結論

よって、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 裁判官 小河原寧)

第一目録

一 特許番号 第一九五五五八三号

一 発明の名称 ナビゲーション装置及び方法

一 登録日 平成七年七月二八日

一 特許権者 神奈川県足柄下郡湯河原町鍛冶屋八六五番地の一公社住宅三棟三五二号

築城俊雄

第二目録

一 専用実施権の範囲

地域 日本全国

期間 本特許権存続期間満了日まで

内容 全部

一 対価

対価の額頭金 五〇〇万円

実施料 本発明及び本特許の再実施等により専用実施権者が得る収入の三三パーセント

支払方法 頭金 専用実施権設定契約時

実施料 三カ月ごとに計算し、計算後二〇日以内に支払

第三目録

一 出願年月日 平成二年八月二一日

一 出願番号 平成二年特許願第二一八一六七号

一 発明の名称 ナビゲーション装置及び方法

一 出願人 築城俊雄

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